宮城県大崎市三本木町の呼吸器科・アレルギー科・内科

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睡眠を軽んじてはいませんか?

2023年11月7日掲載

よく眠れるということが元気の源であることは、皆さん経験からしてよくお分かりですね。8時間くらいが適度ということもご存知ですね。しかし日本人は平均して約40%が6時間以下で、世界の先進国のなかで最も少ない睡眠時間とのことです。

睡眠は眠りについたときのレム睡眠、その後の深い眠りのノンレム睡眠(深さの程度により1度から4度)からなります。およそ90分程度で一晩に5回ほど繰り返されます。睡眠前半はノンレム睡眠が優勢ですが、明け方に近くにつれレム睡眠が優位となり、目覚めるワケです。

興味深いのはレム睡眠で、全身の筋肉は完全に弛緩しており少々の刺激では全く覚醒しませんが眼球は激しく動いております。この間が夢を見ている時です。

脳は脳内に無数に張り巡らせた神経回路を通して盛んに情報のやりとりをしています。ノンレム睡眠の役割は一時的に記憶を保存する海馬という所から意思決定を司る前頭葉へ運び込んで海馬と前頭葉の間を行ったり来たりして記憶の整理を行っていると考えられています。一般に高齢になると物忘れが進んできますが、歳を重ねるにつれ睡眠の質が低下してくると記憶が充分前頭葉に蓄積されなくなるからでしょう。レム睡眠の時の夢の意味は大変興味深く、最近のMRIなどを使った研究から感情に特化した記憶の処理、つまり不快な記憶(これは扁桃体という部分が担っています)を処理しているのではないかと考えられています。さらにレム睡眠は過去と現在の知識を融合させ、創造性を刺激させる働きがあると言えそうです。

人間は目覚めている時は交感神経が活発化されアドレナリンの分泌が盛んになります。アドレナリンやステロイドはストレスホルモンと言われ緊張した日常をおくるには極めて大事なホルモンです。一方においてこれらのホルモンは血圧を高めます。睡眠時は交感神経が抑えられているので、血圧は下がります。不眠が続くと交感神経の活性が抑えられず高血圧が続き脳血管や心血管系など全身の動脈硬化が進みます。大きないびきをかいて時々呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群は充分な睡眠が得られず低酸素症と高血圧をきたすため、きちんと治療する必要があります。

睡眠不足が続くと、食欲をコントロールするホルモン異常をきたし食欲が亢進しますが代謝が悪いので糖尿病や肥満を来しやすくなります。免疫も障害されるので感染症に弱くなり癌も発症しやすい、つまり睡眠は食事や運動と同等、いやそれ以上健康生活を送るにあたって最も重要なものと言えます。

一般内科でも不眠を訴える患者さんは大変多くて、その原因の多くは精神的な悩みのためです。夜間も過緊張が続きストレスホルモンが減らないためでしょう。

睡眠が記憶に関わっている極めて重要な働きをしていることから、仕事や学業、技術の習得のためには睡眠時間を削ることはマイナスの効果しかないことは明らかです。睡眠が充分でないと集中力の低下をきたし事故に発展するリスクが高く、さらに前日の不快な記憶が充分処理されず、イライラが続くことになります。

脳内には視交叉上核という24時間時計の働きをする部位があります。この部位は日が落ちて暗くなると松果体からメラトニンという睡眠促進ホルモンの分泌を誘発させます。元々ヒトは暗くなるとメラトニンのおかげで自然に眠れていたのでしょう。しかし現代社会は夜も光が溢れなかなかメラトニンが働きにくい。夜の人口の光の中で熟睡は難しいのです。

寝る前にアルコールを一杯引っ掛けるとよく眠れるという人も結構います。しかしアルコールは少量では鎮静剤というドラッグの一種と考えるべきです。さらに適量ともなると衝動を抑える働きをする前頭前皮質を麻痺させ気が大きくなって言葉に抑制がかからなくなります。適量を越すと脳全体に麻酔が効いた状態となっていきます。これは睡眠とは全く異なった意識障害です。

気がかりなのは最近の子供たちです。

夜遅くまでiPhoneで光を浴び、深夜の空腹をジャンクフードで満たし、眠らない生活を続けると将来のメタボはほぼ確実、睡眠不足で精神状態もより不安定になるでしょう。

成長ホルモンは睡眠時のみ分泌されます。昔から“寝る子は育つ”と言われますが小児にとって成長ホルモンは生育の発展を促す非常に大事なホルモンです。

小児期のみならず思春期では性ホルモンや成人になっても代謝、免疫、認知にも働きかける重要なホルモンです。

今後、ますます、光や数々の刺激の溢れた夜の環境の中でいかに良質な睡眠を保つかはこれから全世代にわたってそれぞれが考えなければならない大きな課題の一つです。

理事長 近江 徹広